お知らせ 2025.12.19
「ラー博Limited ~挑戦と絆~」 第8弾 無垢-Tsugane- 2025年12月28日(日)~30日(火)
2025年の締めくくりにふさわしい特別な3日間。
ラー博Limited第8弾に登場するのは、かつて"逆輸入ラーメン第2弾"として、多くの記憶に深く刻まれたドイツ・フランクフルト発「無垢ツヴァイテ」。
異文化が交錯する国際都市で生まれ、日本の「良さとは何か」を問い続けてきたその歩みは、ラーメンという器を通して確かな痕跡を残してきました。
そして今回の出店は、フランクフルトで培われたイズムを確かに受け継ぎながら、日本の自然、その"源泉"と真正面から向き合う場所、八ヶ岳南麓・津金。そこから生まれた「無垢 Japan(無垢ツヴァイテ-Tsugane-)」としての出店です。
なお、今後は「無垢フランクフルト」としてのラー博Limited出店も予定されています。無垢という在り方が、再び国境を越え、どのような表情を見せるのか、その続きも、ぜひ見届けてください。
◎無垢の原点 -失われゆく時代に、残したいもの-
様々な人種や価値観が行き交う街、ドイツ・フランクフルト。2010年、無垢はその国際都市で産声を上げました。
国境を越え、文化が交差する場所で店を構えることは、当初、理想として描いていた「国際化」そのものでした。しかし現実は、常に揺れ動く大きな波の中に身を置く日々。何が正しく、何が良いのか、その輪郭が次第に曖昧になっていきます。
そんな中で心から離れなかった問いがありました。
「日本の"良さ"とは何なのか」
古いものが次々と失われ、新しいものが生まれては、瞬く間に消えていく時代。目新しさに心を奪われながらも、本当に大切なものは何なのか、答えを探して彷徨う時間が続きました。
その過程で、創業者でありシェフの山本真一さんが向き合い続けたのが、「無垢」という言葉に象徴される、"受け継がれてきたもの"の価値でした。
一過性ではなく、時間を重ねてきたもの。
人から人へ、土地から土地へと引き継がれてきた営み。
それらを残し、未来へ手渡すための"拠り所"をつくることに、日々没頭していったのです。
利己的になりやすい現代社会の中で、ほんの少しでも利他の精神が息づく場所を。人と人が無理なく交わり、心地よく居られる新しい社会のかたちを求めて。無垢の歩みは、いまもその問いとともに続いています。
◎受け継ぐという思想、その現在地
そうした考えの結晶として生まれたのが「無垢ツヴァイテ-zweite-」。
2014年6月25日から2020年4月3日まで、新横浜ラーメン博物館に"逆輸入ラーメン第2弾"として出店し、多くの記憶を刻みました。
ラー博を卒業した後、その想いを日本の土壌で受け止め、新たなかたちへと翻訳する役割を託されたのが、当時ラー博店長を務めていた 清水さんです。
2020年6月。清水さんは地元・山梨県甲府市にて、昼営業のみの間借り店舗「無垢-zweite-Kofu」を立ち上げます。翌2021年1月には夜営業も含めた本格営業へと移行。
しかしその歩みの中で、山本さん達は「無垢という思想を、より深く、より正直に表現するにはどうすべきか」という問いが、次第に強くなっていきました。
辿り着いた答えが、場所そのものを選び直すという決断でした。
選ばれたのは、八ヶ岳南麓。
築100年を超える古民家を一から改修し、"自然の源泉に近い場所で、人と、素材と、向き合う店"をつくるという大きな挑戦です。
この移転計画に伴い、甲府店は2023年11月末で営業を終了。そして2024年9月12日(10月2日グランドオープン)、山梨県北杜市須玉町下津金に 「無垢-Tsugane-」 が誕生しました。
◎場所が語りかけてきたもの -津金という拠り所-
「初めて津金の邸宅(旧早川邸)を訪れたのは、梅雨の時期でした」
りんご畑を抜け、集落の奥へ進んだ先。石垣の向こうに、静かに佇む屋敷を見た瞬間、直感的に「ここだ」と思ったといいます。
欅の大黒柱、煤の染みついた台所、火鉢、調度品。そのすべてが、家族や地域の人々が行き交ってきた時間を物語っていました。
「またこの場所に、人が集い、語らい、あたたかさが巡る風景を取り戻したい。そして、この家を未来へつなぎたい」
そうして、"無垢"の新たな物語は、自然と歴史が静かに息づくこの地で、動き始めたのです。
この邸宅との出会いは、2022年6月。山梨で約850年にわたり建築文化を継承してきた伝匠舎石川工務所 さんからの紹介でした。
「失われつつある民家を、一軒でも多く未来へ残す」
その思想は、無垢の哲学と深く共鳴します。
空間づくりを担ったのは、北鎌倉で「morozumi」を営む両角(もろずみ)夫妻。実は奥様は、無垢ツヴァイテの創業メンバーであり、山本真一さんの義妹という縁も、この場所に静かに重なっています。
古いものに敬意を払い、新たな役割を与える。
その姿勢が、この空間の隅々にまで宿っています。
◎山梨の自然が生んだ"源泉" 二つの問い、二つの答え
今回のラー博Limitedでは、山梨という土地の"源泉"から生まれた二つのラーメンが提示されます。
"源泉"をそのまま一杯に移す「八ヶ岳湧水鱒白湯」
この一杯の出発点は、素材ではなく「水」です。
八ヶ岳南麓という土地が持つ水の質、その静けさ、その恒常性。無垢-Tsugane-がこの地に根を張った意味を、最も端的に語るのが「八ヶ岳湧水鱒白湯」なのかもしれません。
実現のきっかけとなったのは、同じ北杜市にある川魚専門店「みやま」との出会いでした。1972年創業。ニジマス、イワナ、鱒(マス)などを扱う養魚場であり、魚を「育てる」ことを生業としてきた場所です。
そして、みやまが魚を育む水が、八ヶ岳南麓・標高約1,100mの地で、100年以上前から湧き続けていると言われる「越水湧水」。一年を通して水温はおよそ11℃前後。季節に揺らがないその水が、魚の身を健康的に引き締め、余計な緩みを持たせず、旨味を内側へ凝縮させます。
ラーメンは、ときに強い演出で成立します。
けれどこの一杯が目指したのは、演出ではなく「写し取る」ことでした。大柴さんが手塩にかけて育てた鱒。その希少な"アラ"から、丁寧にだしを引きます。
工程はまっすぐで、誤魔化しがききません。
まず鱒のアラをオーブンで焼き、香ばしさと骨の旨味を立ち上げる。その後、強火で約2時間炊き上げて白湯へ。
そこに重ねるのが、真昆布、帆立干し、焼きあご、鯖厚削り、鰹厚削り、花鰹。素材の重ね方は豪快に見えて、狙いは明確です。鱒の白湯の核を壊さず、和だしの層をまとわせ、余韻の長い奥行きをつくること。魚の旨味を"主張"させるのではなく、土地の静けさのように「残る」味に整えることです。
タレは塩。沖縄海塩とゲランドの塩を主体に、和だし、薄口たまり、オーガニックシュガー、帆立粉、雲母堂の塩麹、三河みりん、旬味。
塩ダレは輪郭を与える存在であると同時に、素材同士の"翻訳機"でもあります。塩は強くすれば勝ちではない。ここでは、鱒の旨味を正確に支え、和だしの層と結び、味が「ひとつの方向」に向かうように設計されています。
そして、味の表情を変えるのが香味油。
養魚場のすぐ近くに自生している天然クレソンに、青森県産にんにくを加え、太白胡麻油で仕上げたクレソンオイルです。清水さんはこう語ります。
「養魚場のすぐそばに自生していたことと、鱒との相性を考えクレソンオイルを考案しました」
"近くにあったから使う"のではなく、"近くにある必然"を、味の設計に落とし込む。土地と料理の距離を近づけるのは、こういう判断なのだと思います。
具材は、鱒を低温調理したミキュイ。沖縄海塩、ドイツのスパイス、Exオリーブ油、ローズマリーやタイムなどの香草を纏わせ、単体でも成立する完成度に仕上げられています。だしに寄り添うだけの具ではなく、噛んだときの旨味と香りが、スープの余韻を引き延ばすように設計された"もうひとつの核"。鱒のだし、クレソンオイルとの相性は、言葉より体感の方が早いはずです。
そして、この一杯の最も象徴的な点は、動物系素材を一切使わないこと。
八ヶ岳の水と山梨の自然、その"源泉"だけで組み上げる。素材を足して強くするのではなく、土地の条件が持つ力を信じる。
その想いが、器の中で静かに形になっています。
鱒のアラは希少であり、無限には手に入りません。
だからこそ、この一杯は、1日200食×3日間=600食限定。
希少性を売りにするのではなく、「循環の限界」を受け入れる提供数です。"無垢"という在り方は、こういうところに宿ります。
発酵の層を土地の記憶として重ねる「甲州重ね味噌ラーメン」
もう一つの答えは、発酵です。
山梨の味噌は、ただの調味料ではなく、暮らしが積み重なった時間そのもの。そこに正面から向き合い、「味噌ラーメン」という形で提示する、それが「甲州重ね味噌ラーメン」です。
味の要となる味噌ダレに選ばれたのは、韮崎市で昭和5年から営業を続ける井筒屋醤油の味噌。
そしてこの選択には、土地の文脈があります。井筒屋のある韮崎は、創業者でありシェフの山本真一さん、清水さんにとっても"出生地"という個人的な座標を持つ場所。料理の設計は、技術だけでなく、その人の来歴とも結びつきます。
かつて昭和20年代には60軒ほどあったと言われる山梨県内の味噌・醤油蔵も、今では数えるほど。
失われていくものの価値は、失われてから語られがちです。無垢がやろうとしているのは、その価値を「残す」ために、味として"現在形"で提示すること。食べることで、失われる前の文化に触れてもらうことです。
味噌ダレは、井筒屋醤油のフラッグシップ「輪」を軸に、「やまぶき味噌」「甲州味噌」を重ね、さらに北杜市白州町で自家採取した種籾から育て、農薬・化学肥料を使わず仕込まれる雲母堂の「玄米味噌」を加えます。
この"重ね"は、単なるブレンドではありません。
蔵の時間、土地の時間、人の手の時間、異なる時間軸をひとつの味として結び直す営みです。
香りの立ち上がり、味噌の厚み、甘みの丸さ、余韻の伸び。味噌ラーメンにありがちな"重さ"ではなく、層が折り重なっていく"奥行き"へと導くための構成です。
スープは、鱒白湯とは対照的に「二つの骨格」を持たせます。
地元産「甲州地どり」を主体に引く清湯スープに、国産豚を強火で炊いた白湯スープをブレンド。さらに山梨県産野菜と、鯖厚削り・鰹厚削り・花鰹の和だしを加える。かなり手間のかかった設計ですが、理由は明快です。
重ねた味噌ダレを受け止める"器の強さ"が必要であり、同時に発酵の繊細さを潰さない"透明度"も必要だから。清湯と白湯は、相反する役割を担いながら、味噌の層をきちんと支えます。
チャーシューは地元「甲州富士桜ポーク」。
桜チップで燻製にしたローストポークとして添え、味噌のコクに香ばしさと立体感を加えます。発酵の深みと燻香の相性は、足し算ではなく、互いの輪郭を際立たせる"増幅"として働きます。
麺もまた、想いの継承
無垢の一杯において、麺は単なる構成要素ではありません。創業者の山本真一さんにとって「支那そばや」の佐野実さんは、長年憧れ続けてきた職人の一人でした。生前に言葉を交わす機会にも恵まれ、その姿勢や考え方は、いまも無垢の根幹に息づいています。
無垢-Tsugane-では「支那そばや御用達粉」および「支那そばや御用達粉〈紬〉」を用いて、自ら製麺を行い、スープに最適化した麺を組み立ててきました。今回はその「支那そばや御用達粉〈紬〉」を使用します。
〈紬〉は、佐野実さんが亡くなるおよそ3年前から、配合調整と試作を重ね、最期の時期に完成したブレンド粉。もちもちとした食感を生む「きたほなみ」、旨さと香りを出す「春よ恋」、程よいコシを支える「ゆめちから」。北海道産きたほなみ・春よ恋を主軸に、計6種類の小麦粉を配合しています。
加水率は38%前後、番手は中太の#18ストレート。
もちもち、しなやかで、芯に旨みがあります。スープをただ"絡める"のではなく、受け止め、運び、余韻まで連れていく麺です。
誰かが積み重ねてきた想いを、別の場所で"いま"の一杯に繋げる。麺にまでその想いを通すこと自体が、無垢らしさだと思います。
一杯の背景にある「食の流れ」まで届ける
無垢の体験は、ラーメンだけで完結しません。
この流れを、店では Muku SORMスタイル
Sake(お酒)→ Otsumami(おつまみ)→ Ramen(〆のラーメン)→ Muku
と呼び、無垢の世界観を象徴する食体験として大切にしています。
今回の出店は挑戦するラーメンが主軸ではありますが、「少しでも無垢らしさを感じていただきたい」その想いから、数量限定でOtsumamiも提供します。ラーメンの味だけではなく、その前後に流れている時間、酒と肴がつくる緩やかな余白まで含めて、無垢を持ち帰っていただくためにです。
今回提供されるのは、次の二品です。
◎甲州富士桜ポークと北杜市産りんごのマスタードソース和え
甲州富士桜ポークの肩ロースを5時間低温調理し、桜チップの熱燻で香ばしく。地元津金名産のりんご「サンふじ」のコンフィチュールとグレインマスタードを合わせ、豚の甘みと酸の輪郭を整えます。
◎甲州地どり胸肉のトンナート
ピエモンテ州の伝統料理「ヴィテッロ・トンナート」から着想し、甲州地どりの胸肉をしっとり柔らかく。トンナートソース(ツナソース)とクレソンオイルを合わせ、山梨の食材と無垢の文脈を一皿に束ねます。
どちらも日本酒やナチュールワインと相性が良く、期間中は厳選した銘柄も提供予定。
"〆にラーメン"という文化を、単なる習慣ではなく、あり方として提示する。それが、無垢の食の設計です。
◎出店情報
店舗名:ラー博Limited第8弾「無垢Japan(無垢ツヴァイテ-Tsugane-)」
開催日:2025年12月28日~12月30日
場 所:新横浜ラーメン博物館 地下1階「ラー博Limited」(博多一双前)
無垢-Tsugane-
住所:山梨県北杜市須玉町下津金2847
昼【一杯処】11:00-14:00 (L.O.13:30)
夜 〖呑喰啜処〗18:00-21:30(最終入店19:30)ご予約優先
定休日:火・水
https://www.instagram.com/muku_japan/

